9,000万円の夢と挫折――アエラリウムの物語

基本情報

  • 馬名:アエラリウム
  • 生年:2023年
  • 性別:
  • 毛色:栗毛
  • 父:サートゥルナーリア
  • 母:スティールパス(母父ネオユニヴァース)
  • 生産:千代田牧場
  • セレクトセール当歳価格:9,020万円
  • DMMバヌーシー募集価格:9,000万円(1口45,000円、総口数2,000口)
  • 競走成績:出走なし

輝かしいスタート――セレクトセールからDMM募集へ

2023年7月、セレクトセールで9,020万円で落札されたこの栗毛の牡馬は、早くも注目を集めていた。「毛色が輝いてる」「只者ではない気がする」――まだ名前もない当歳馬に、すでに多くの期待が寄せられていた。

そして2024年8月、DMMバヌーシー1期生として募集が開始される。福永祐一調教師の所属が決まり、サートゥルナーリア産駒という血統、9,000万円という価格設定は、まさに「プレミアム」な一頭だった。

「絶対一口行きます」「募集開始6秒でポチりました」「この馬で大きな夢みましょう」

出資者たちの熱狂ぶりは凄まじかった。一部で管囲の細さや価格の高さを懸念する声もあったが、それを上回る期待感が募った。

「ケンタッキーダービーに行きたい」――福永師の絶賛

2024年10日、DMMバヌーシーが公開した募集時の馬体診断には、こう記されていた。

馬体重は現在458kgです。来週にも育成厩舎に移動します。気性は激しかったり悪かったりはしませんが、大人しくはありません。お母さんも気性のきつい馬でしたし、そういう馬じゃないと大きなところは取れないと思います。ここまでは順調に来ており、先週見に来た福永祐一調教師は「この馬でケンタッキーダービーに行きたい」と絶賛していました

この一言が、出資者の夢をさらに膨らませた。ダート志向が明確となり、「世界を転戦して大活躍してほしい」という声が相次いだ。カウントダウン表示の中、満口達成。総勢2,000口、9,000万円の馬主ファンドが成立した。

順調な滑り出し――育成初期の好評価

2024年10月から2025年初めにかけて、調教動画が公開されるたびに好意的なコメントが並んだ。

「逞しくも筋肉質に見える馬体もフットワークは軽やかに柔らかい感じ」
「癖のないスムーズな走りで順調そうに見えます」
「福永先生の目利きもさすがですね」

2025年1月にも調教動画が更新され、「焦らずじっくり成長を促している感じ」と受け止められていた。すべては順調――誰もがそう信じていた。

暗転――曖昧な報告と長期療養の始まり

しかし、2025年1月から3月にかけて、状況は変わり始めていた。

「右前足に少し疲れ」「右前の張りが締まってきた感じ」

牧場からの報告は曖昧で、更新頻度も月1回程度。出資者からは「情報がほしい」という声が上がり始めた。

そして2025年4月、突然の発表。

「先生と相談してPRP療法を行った」
「繋靱帯の張りはPRP療法を3回施して~」

繋靭帯炎だったのか? なぜ最初から病名を明かさなかったのか? 出資者の不安と不信感が募り始める。

「単なる張りだけであんな治療して、こんな長引くとは思えない」
「症状と治療方法から察するに繋靭帯付着部炎か種子骨炎でしょうか」
「ちゃんとした情報がほしい」

育成牧場への批判――情報開示の問題

5月から8月にかけて、3ヶ月以上も乗り運動ができない状態が続いた。月1回程度の更新しかない千代田牧場の対応に、批判が集中し始める。

「この牧場はお便りほんとくれないよな」
「いくらなんでも更新が少なすぎる」
「9000万円の馬ですが、扱いがあまりにも…」
「この牧場に預けている馬は買うのやめよう。バヌーシーでやる意味がない」

一方で、「便りがないのは順調な証拠」と楽観視する声もあった。しかし、その希望的観測は裏切られることになる。

本州移動の矢先に――種子骨骨折

2025年10月末、ようやく朗報が届く。「栗東近くの外厩に移動予定」――千代田牧場から出ることに、出資者は「朗報」と反応した。

しかし、その移動は実現しなかった。

2025年11月、本州移動直前に種子骨骨折が判明。患部をかばったことによる反対脚の骨折だった。

「もうちょっと早い段階で診断出来たと思うんだよなぁ」
「9/27の動画を見たときには『よかったぁ』と思ったけど、その後よくなくなっていったので、今ではそれが馬に無理させてたんじゃないかと思って後悔してます」
「最初の怪我を隠蔽し長引いた結果庇って骨折」

保険金問題――12月と1月の分水嶺

11月時点で骨折が判明したにもかかわらず、千代田牧場は手術ではなく保存療法を選択。そして、12月中に競走能力喪失の診断を受けることなく、年を越してしまった

これが、出資者の怒りに火をつけた。

「保険金が昨年末までに解散なら馬代の50%だったのが、馬代の35%に減って、さらに年越した分の保険料を保険会社は獲得」
「せめてもの誠意で診断は12月に受けてくれよ、なんで1月なんだよ」
「11月の段階で能失になってても不思議じゃないでしょ」
「年明けのスピード感と先月のグズグズ感。3歳を待った方がいい人達の都合を鑑みた対応と思えちゃいます」

2026年1月、保険会社の獣医師により、「予後が悪いところの骨折」として競走能力喪失の診断を下された。

2026年1月22日――デビューなき引退

ついに正式な引退発表。乗馬としての第二の馬生が決定した。

DMM担当者は「関係者とのコミュニケーションはもっと密にしていかなければならない」とコメント。それは、この馬の運用が決して満足のいくものではなかったことの証左だった。

保険金は馬代の35%。年が明ける前の2歳であれば約3,150万50%であったためこの差は大きい。45,000円の出資に対して、1口あたり約1.575万円の返金となった。

「デビューできないのは残念だけど次の受け入れ先が決まってるならよかった。乗馬として頑張って欲しいな」
「いろんなこと、いったん全部おいといて乗馬観に行って『よくがんばったね、ありがとう。』って伝えたいな」

馬自身への愛情は、最後まで変わらなかった。

教訓――一口馬主が学んだこと

アエラリウムの物語から、出資者たちは多くを学んだ。

育成牧場の重要性

「今後千代田から預託しなくていいと思う。結果こうなるならそのお金をほかの馬にお金をかけた方がいい」
「育成牧場はよくみてえらぼうね」
「シュトラウスとマイエレメント持ってますがシュトラウスは能力発揮できず…厩舎ってほんと大事だと思います」

情報開示の姿勢

「千代田牧場とバヌーシーの相性は最悪だな。クラブのコンセプトに合わない。個口生活を日々楽しみたい人はこの牧場を避ける方が賢明」
「DMMバヌーシーは悪い状況を悪いと報告するDMMはまだマシ。ほんと急に『競争能力喪失しました』の一言で終わるようなところもある」

血統のリスク

「母父兄姉の戦績見ると怪我でリタイアした馬が多かった」
「ミッキーカプチーノの下ということで覚悟はしてた」
「強さと脆さは、表裏一体なことが多いんかねぇ」

エピローグ――9,000万円の夢の行方

「募集開始6秒でポチった」出資者。「この馬で大きな夢みましょう」と呼びかけた人。「複数口出資」して大きく張った人。2,000口すべてに、それぞれのドラマがあった。

福永祐一調教師が「ケンタッキーダービーに行きたい」と絶賛した栗毛の馬は、一度も競馬場を走ることなく、静かに引退していった。

しかし、この物語は単なる「失敗談」ではない。期待と挫折、情報開示の問題、育成の難しさ、そして何より――馬への愛情。一口馬主という世界の光と影が、ここには凝縮されている。

アエラリウムは、乗馬として新たな馬生を歩もうとしている。競走馬としての夢は叶わなかったが、2,000人の出資者と共有した時間は、確かにそこにあった。

「アエラリウム君は乗馬で幸せに過ごせることを願います」

この言葉に、すべてが集約されている。


※本記事は、DMMバヌーシーの公開情報およびnetkeibaコメントを基に作成しました。

https://banusy.dmm.com/belong_horse/110131755
https://banusy.dmm.com/recruitment_horse/recommend/2023
https://db.netkeiba.com/horse/2023105379